4月、新宿に向かう電車の中は

愛し君へ


2024年4月10日(水)12:44


今年の東京の桜は開花が遅れ、

そのおかげで7年ぶりに入学式に桜が咲いていた。

この時期の電車の中は、

新しい制服やスーツの匂いがする。

電車に乗り込む人たちの顔は、

どこか少し緊張しているようにも見える。

車内はいつもより静かだ。


車窓には満開を少し過ぎた桜達が映る。

どこを走っていても桜が植えられている。

そして、その桜を見てほほ笑む人達の顔がある。


近くに座っていた女子大学生2人が、

お互いのスマートフォンを見ながら会話をしている。

何やら桜の名所を検索しているようだ。


「ねえ、ここの桜綺麗じゃない?」

「いいね、いつまで咲いているかな?」


そんな会話をするくらいなら、

二人で顔を上げて、今車窓に映る桜を見れば良いのに。


若い頃、春が嫌いだった。

正確に言えば4月が嫌いだった。

高校、大学、社会人と、

新しい生活に希望を持つというのが性に合わなかった。

最初から大した期待もしていなかったから、

結果、全て期待以上で楽しかった。


ふと何年も忘れていた記憶と感情を思い出した。

中高一貫の母校は、女子のみ高校生に上がると、

リボンの色が赤から緑に変わった。

当時付き合っていた彼女のリボンが緑に変わった日、

何故かとても落ち込んだ。


彼女だけ大人になった気がして嫌だったのだろうか。

赤リボンで一緒に過ごした日々が楽しく、名残惜しかったのだろうか。

それとも単純に緑リボンが似合わないと思ったからだろうか。

あの時わからなかった感情は、20年経ってもわからないまま。

タンスの隙間に落ちていたクリップを見つけた時のように、

あの時の感情を思い出した。


先日読んだ小説が面白かった。

この2,3年で一番面白かった。

そして、思う。

“あぁ、ここから2,3年、このレベルで面白いと思える小説には出会えないのだ”と。

それでも読み続けなければ絶対に出会えない。

これはドラマや映画も同じだ。

触れる作品が全て感動できるわけじゃない。

それでも触れ続けなければ出会えない。

作り側も同じだ。作り続けなければ出会えない。

咲いて、枯れて、また咲く。そしてまた枯れる。

常に咲き続けている花なんて無いのだと。


電車は新宿駅に着いた。

イヤフォンをしている人達は、どっちのドアが開くかわからない。

左右のドア、同じくらいの人数が並んだ。

右側のドアが開く。左側のドアに並んでいた人たちは、

慌てて右側のドアから出て行く。

そんなに焦らなくても、

左側のドアも遅れて開くよ。


そんな春のひと時を君にお届けしました。

デートの約束をしよう。

次会う日まで会えない時間を大切に。

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