大人の家出
愛し君へ
今年も残り2か月。
装いも変わり初めた今日この頃いかがお過ごし?
晩秋を楽しもう。
君が心配しているんじゃないかと思って、
今日のラブレターは、ここ数日間刈川がどう過ごしていたかをお伝えするね。
10月24日、「クズの魔法使い」最後のCMをアップして、
約2か月にわたるプロモーション活動が一旦落ち着いた。
そこから37度代前半の熱が二日続いて、
病院に行った所、高熱でないので検査が出来ないと言われた。
これまでの疲れが出たのだろう。
身体を休める事に専念したが、中々気持ちが休まらない。
イベント前日にスタジオで調整をして、
何かソワソワしたまま、イベント出演当日を迎えた。
本番が始まった。
ステージ上で機材トラブルが起きて、自分の声が全く聞こえなくなった。
そーゆー類の事は今まで経験しているのだが、動揺してしまった。
何とか本番を終えたが、あまり声が出なくなっていた。
搬出が終わり、車に戻ると、いきなり泣き出してしまった。
今日だけの事じゃなく、この1・2か月溜まった何かが溢れ出た。
今日はどうしても家に帰りたくなくて(別に待っている人がいる訳でも無いんだけれども)
家出をした。とにかく家とは逆方向、潮の匂いがする方向に車を走らせた。
ラブレターを読んでいる君は知っていると思うが、
刈川は車の中でよく泣く。
この日も、車を走らせながら、
“開けた窓から入ってくる風が強くて涙が出るよ”
というテイで普通に泣いていた。
着替えも何も持っていないので、まずホームセンターに立ち寄った。
パンツと下着と靴下を買った。
余談だが、この数年、BVDにハマっている。
靴下はハズレだった。思いっきり踵がほどけていて、
結局家に戻ってきた時に捨ててしまった。
あまり賑やかな所に行きたくなくて、
行き先を湯河原に決めた。
そして、簡素な温泉宿を素泊まりで予約した。
宿に着くと明らかに自分だけ浮いていた。
大勢の旅行客に交じって、
日常使いのカバン一つでチェックインしている。
そして久々の素泊まり。
素泊まりだと、ホテルの説明もすごく短い。
通された部屋は、いきなり来たとは思えないくらい素敵だった。
時刻は17:00、そういえば朝食べてから何も食べてない。
駅前の商店街に繰り出した。
賑やかなゾーンを抜けると、
昭和のプラモデルで作りそうな洋食屋に出くわした。
さっそく入店。70代くらいの男性二人が切り盛りしていて、
1人なのでカウンター席に座ろうとすると、
「そっちじゃない、こっち」とテーブル席に移動させたれた。
手書きのメニューはどれも美味しそうなものばかり。
トンカツAとトンカツBがあり、肉が違うのかなと思ったけど、
さっき怖かったので聞けなかった。
そしてチキンカツの方がトンカツより高い。
それならと、トンカツA定食を頼んだ。
店内には、なにわ男子のラジオ番組が流れていた。
トンカツA定食が来た。
それはもう、絵にかいたような、ブラウン管に映ってそうな、
誰もが見た事ある定食だった。一口食べてみた。
めちゃくちゃ美味しい。味噌汁も漬物も美味しい。
食べ続けているとまた涙が出た。
でもこの涙はさっきの涙と違って、何だかホッとした時に出る涙だった。
そしてふと思った。“俺はこの味を一生忘れないだろう”と。
そこから宿に戻り、温泉に入っていると、
大学生の合宿客と出くわした。
そういえば、刈川の大学のゼミ合宿も、湯河原だった。
当時の自分と、彼らを重ね合わせて、
あの頃も不安だったし、今も不安だ。
結局、人生に不安じゃない時間なんて無いんだなと。
風呂上り、部屋で日本シリーズを見た。
有名なピッチャーが打ちこまれていた。
あぁ、彼にもこーゆー日があるんだと余計な同情をしていた。
早く寝て、朝日を見にいこうとした。
しかし明け方、大雨が降っていた。
これはもっと寝ていろというお告げだと思い、
結局いつも起きる時間くらいに起きた。
宿を出る頃には雨は上がっていた。
本当は紅葉を見にいこうとしたが、
先程の雨でハイキングコースも濡れているので諦めた。
山を諦め、海に向かった。
ふとお隣の真鶴半島に行きたくなった。
車で行けるギリギリの公園に消防車が飾ってあった。
そこには「寄贈石原プロモーション」と書いてあった。
公園を抜けると、とても展望の良い広場に出た。
大島・初島・熱海が一望できた。
夜にここに来れば、熱海の夜景が綺麗なんだろうなと思った。
そして、刈川の人生も、対岸で見れば悪くないのかもと思えた。
夜景も富士山も、中にいると綺麗さがわからないよね。
昼近くになって、心も随分軽くなっていた。
本来なら近くで美味しい魚屋でも探すのだが、
「さて、帰ろう」と高速に乗って家に帰りましたとさ。
約24時間の家出でした。
というわけで、刈川はもう大丈夫。
心配してくれてありがとうね。
この話をするか迷ったんだけど、
こうやってラブレターで伝える事でまた一つ気持ちが軽くなりました。
いくつになっても家出は良いものだ。
君も出来る状況じゃないかもしれないけど、オススメするよ。
デートの約束をしよう。
次会う日まで会えない時間を大切に。
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